07.夕暮れ
「ねぇ、そら」
小さな手でズボンをぐいぐい引っ張られて見上げると、空一面に鮮烈なオレンジが広がっていた。
おびただしい色のグラデーションを重ねた狂気的に美しいその風景。
「すごい」
「ほんと。きれいだね」
僕にそれを気づかせた幼い彼は、純粋な目でそれに見入った。
一つ一つの雲の輪郭をなぞるように少しずつ視線を動かして、きっと頭に焼き付かせているのだろう。
ハニーブラウンの細い髪が風にふわふわ揺れて、汗ばんだ横顔が覗く。
そのまましばらく時間が流れた。
「お兄ちゃんも見てるかなあ」
唐突に彼が、空を見上げたまま言った。
僕は驚いて彼を見る。
「お兄ちゃんも見てくれてるかな、きれいなの知ってるかなあ」
ずっと遠くを、確かに見る目で。
それなのにその祈るように痛切な口調、
僕は嘘もつけなかった。
「…見てるといいね」
見てるよ、大丈夫だよ、と。
言ってあげられなかった。
「うん」
小さな手はまだズボンを掴みっぱなしで、僕がそっと手をやるとようやく力を抜いた。
僕はその手を包むように握った。
「さ、そろそろ行こっか」
「うん」
劇的に暮れていく空がどこへ行くのか、僕は知らないけれど。
どうかこの小さな祈りが。
僕の指先を掴む小さな手に込められた優しい想いが。
どうかその人に届いていますように。
幼い彼が想い続けるその人が気づいてくれますように。
まばゆい光と一緒に伝わりますように。
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08. 指先
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09. 羽根
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10. ゆき
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11. 髪
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12. ギター
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