13.不眠症













14. 海













15. ソファ













16. 水滴













17. くもりぞら












18.

「ハタ今日息してる?」

唐突な僕の問いに、んぇ? と曖昧に返事をして、彼はコーヒーを一口飲んだ。
白いカップが机に当たってコツリと音を立てる。
僕は彼の紺色の髪を見た。
彼の髪とコーヒーは計算し尽されたインテリアみたいな配色で生活感がない。それのせいだろうか。

「息してる?」
「してるよ」
「呼吸してる?」
「しとるて」
「げんき?」
「……まぁ、元気やけども」

「何言うてん?なんか変?」
「……音がしない」
「音?」
「ハタから音がしない」

そうなのだ。今日はなぜか音が聞こえなかった。
ハタの周りはいつもいい匂いみたいに青っぽい音がしているのに、今日は何も聞こえないのだ。
それどころか彼の周りは台風が去った後の空みたいに素っ気なく白に見える。

「音、ねぇ」
「自分でわからんの?」
「知らんわ。聞いたことない。どんな音?」
「んー…うたみたいな音。意味がある音」

それは濃厚な深い青、
浮かんで辺りを埋め尽す、ゆるやかに繋がっていく流れ。
踏み込んだら飲まれてしまいたくなるような、恐ろしく甘美な歌のような音。

「音、ねぇ」
「きれいな音だよ」

本当に。

「だから一生聴かないでね」
「は?」

聴いたらあなたはきっとその音に連れて行かれてしまうからさ。