25. 体温













26. コーヒー













27. くすり













28. 声













29.

ああ、ほら。また今ちくりとした。

俺の目の前にはただ、住宅街を縦横無尽に走る細い道路。

その光に晒されている鈍いグレイの急な坂道を見下ろすと、こめかみが、何かに揺り動かされる。

ポジがネガに反転して一瞬暗くなったと思うと次の瞬間にはもう辺りは均衡を失って真ん中から大きく道路が裂けていく歪んだ画面が下から湧き上がるように入り込んできて俺を動けなくする地面は壁をも巻き込んでどんどん沈んでいく騒然と渦巻く視界が耳鳴りを起こさせながら飛び散るように脳裏に焼き付く劇彩色の鮮烈な花畑に誰かが絵の具をぶちまけてる、ああもう濃厚な空気の中をゆっくりと落下する赤い花のようにシンメトリーが空へ

落下する。また終わってしまった。

どうして。
何で俺にはやって来ない。
俺が欲しいのはそのひとつのことだけなのに。こんなに焦がれているのに。
こんな立ちくらみなんか。思考を掠めるめまいなんかいらない。

俺が欲しいのは、あんたが見た世界だけなんだよ?


























30.


「あ。」と言って、彼女が目を逸らした花瓶の花が枯れていたので、
僕は台所に立って花を花瓶から抜き出した。

甘い匂いはもうしない。死んだ植物の青いにおいがする。

「ア。」

切り取られた茎の一番下が尖っていた。
花から真っ直ぐに降りて、鋭利に水を滴らせる。

刺せる。

ふと思った。
切っ先を真っ直ぐに君の首筋へ、
死んだ花がスルと刺さる。
血を吸い込んだような花が咲く。
首に根を張って厚い花びらを開かせる。

やってみようか?

いや……

僕は鉛筆を持つように花を持って、
仰向けにした自分の左手首を仕留める位置で構えた。
茎から落ちた水がピタと跳ねて腕を流れる。

僕の手首に花を刺そうか。

ふと思った。

「どうしたの?」

いつの間に君が怪訝そうな顔でこっちを見ていた。

「何でもない。」

ふと思っただけ。
相変わらず僕は紺色に頭をやられてるな。
花を刺して死になよ。
手首か首を刺して死んでしまいな。

そう、
思っただけ。

ふと思っただけ。

僕は花を捨てた。